・思いがけない宣告

2006年1月12日
隆太が、前日から、2〜3回胃液を吐くので、かかりつけの獣医さんで診察を受ける。体温は正常で、貧血の兆候もなく、毛玉がたまっているのではとのこと。
でも、なんとなく気になったので、念のため血液検査をお願いする。
結果は、BUN.CRE.NA.CAが高値、CLが低値で、明らかに腎疾患の兆候とのこと。
まだ二歳にもなっていないのに、すでに老猫なみの数値。
食事は、体質に合わせて作ってもらう無添加のドライフード中心に、塩分の強い人間の食べ物は与えないようにして、細心の注意払ってきたし、新鮮な水も常に複数用意している。
猫は腎臓疾患になりやすいので、その点は一番気をつけていただけに、何かの間違いではと、信じられない結果だった。
先天的な腎障害ならば、有効な治療法はないとのことで、目の前が真っ暗になる。
昨年2月に、ワクチンを打っていたにもかかわらず、ひどい風邪をひいてしまったのが、引き金になったのだろうか。
後日詳しい検査をしましょうといわれて、帰宅したものの、食事も喉を通らないほどおちこんでしまった。
こんなに若いのに、こんなに元気そうにみえるのに、どうしても信じられない。
こんなに辛い想いするなら、いっそ検査など受けなければ良かったとさえ考えてしまう。

・転機

何も手につかず、隆太の顔を見るだけで涙があふれ、ただただ暗澹とした気持ちで二日間を過ごした後、猫の食事について色々調べた時に出会った、須崎先生のことを思い出した。
薬に頼らず、手作り食で、免疫力をあげる方法は、説得力があった。
かかり付けの先生も、誠実によく診て下さっていたが、セカンドオピニオンも必要かもと、須崎先生の電話相談を申し込んだ。

・電話相談

須崎先生は、医院を開かずに、電話相談と往診だけで診療にあたっている。
とりあえず、電話で検査結果と、隆太の様子をお話しする。
「隆太君の腎臓は、目詰まりおこしたザル状態です。目詰まりをとってやるには、とにかくできるだけたくさんの水分を体内に取り入れてやることです。」
水分補給の方法としては、毎日点滴をする治療法もあるとのことだったが、車で30分かけての通院は、それだけで隆太にはストレスになる。しかも、風邪の時に5日連続で点滴して以来、隆太は点滴を非常にいやがっている。
治療効果と、ストレスによる消耗を比べると、効率のよい方法とは思えない。

・食事療法

点滴がだめなら、あとは食事として水分を摂らせるしかない。
しかし、猫はもともと少ない水分で生活する動物なので、犬ほどガブガブ水を飲まない。(その習性が、猫の腎臓に負担をかけることになるのだが)
須崎先生のブログで、水分の必要性は理解しているつもりだったが、私の理解はあまりにも不充分だった。
「普通、食物には60%前後の水分が含まれていますが、ドライフードは10%です。
ドライフードだけで、余り水を飲まない猫の体内は、砂漠なみですよ。一度ドライフードを食べて御覧なさい。唾があっという間に吸い取られますから。」
手づくり食の本は読んでいたけれど、素人が栄養知識も不完全なまま実行するのが恐くて、ついついドライフードにたより、現実に隆太がどのぐらい水を飲んでいるかも把握していなかった。
「難しいことは考えなくても大丈夫!普段家族の食事を作るのに、一々ビタミンやミネラル計算していますか?普通に人が食べているのと同じ感覚で作ればいいのです。」

・昔の食事

先生の言葉で、子供の頃、母が犬や猫に食べさせていた食事を思い出した。
いつも大型犬2頭と、数匹の猫が暮らしていた我が家では、彼らの食事も結構大変だった。
当時はペットフードなど売ってなかったし、たまにデパートで見かける輸入品は、とても高価で、常食させられる値段ではなかった。
母は、近所の八百屋さんで少し傷みの出かけた野菜や、大根の葉っぱを、魚屋さんではアラを、肉屋さんでは骨とスジ肉のくずを、お米屋さんではくず米を安く分けてもらって、それでおじやを作って犬や猫たちに食べさせていた。
魚のアラの大きな骨をよけたり、おじやをかきまぜるのは、私の仕事だった。
母は、ビタミンもミネラルも意識していなかったが、母のおじやで、犬も猫も元気に長生きしていた。
むしろ、ペットフードがたくさん出回って、ドライフードを使うようになってから、結石に悩まされたり、皮膚病に罹る犬や猫が増えた気がする。

・手づくりおじや

「特別な素材を求める必要はありません。普通におうちの冷蔵庫にある食品でいいのです。
とにかく、できるだけ水分しっかり摂れる食事を作りなさい。猫は水を飲むのではなくて、水を食べるのです。」
須崎先生の励ましに背中を押され、その日からドライフードは一切やめて、手作りのおじやだけに食事を切り替えた。
思いもかけない隆太の腎臓の状態に、嘆くばかりだったのが、「まだいろいろできることはある!症状がでてこない早期に発見できたのは、幸いだったと思おう。隆太は、運の強い子なんだ。」と前向きに考えられるようになった。
その夜、早速作ったおじやを、隆太も健太もお皿がピカピカになるまでなめ上げるほど、喜んで食べてくれた。
考えてみれば、隆太は子猫の頃から、スープやおじやのような水気の多い食べ物をほしがっていた。
隆太自身は、ちゃんと自分の体が必要とするものを知っていたのに、私はなにも見えていなかったのだ。
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